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紫の水晶宮(Я18)

つれづれなるまゝに日ぐらし硯(PC)に向ひて心に移り行くよしなしごと(妄想)を、そこはかとなく(だらだらと)書きつくれば、怪しうこそ物狂ほしけれ(私の脳みそはもうだめだ・・・)

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だいすき-ZERO-

「学園長―一息入れませんか?」
「ん?そうだな。そうしようか」

書類から顔を上げると、シズルが微笑んでいた。
お姉さまとお部屋係であった時から変わらず、煮詰まった時には絶妙のタイミングで声を掛けてくれる。
有能という言葉では片付けられない程にできた学園長補佐―シズル・ヴィオーラ。
仕事上の関係だけではなく、私生活においてもかけがえのないパートナー―
今日はそんな彼女に日頃の感謝を伝える日。

「ほな、うち、お茶淹れてきます」
「ん」

執務机を離れてキッチンへと消える彼女を見送って、ナツキはいつの間にか寄せていたらしい眉間のしわをもみほぐした。
「さて、と」
閉じていたまぶたを開けると、ナツキは引き出しから予め用意しておいた書類を取り出してシズルの後を追った。

「シズル?」
「ん?」
「ちょっとラボに行ってくるから」
「ラボ?何しに?」
「書類―ヨウコに渡して来る」

ナツキは、わざとひらひらと書類を見せておいて―

「それやったら、うちが後から―」
「いや、いいんだ。すぐ戻って来るから、お茶淹れておいてくれ」
「そう?わかりました」

少々不本意そうなシズルを笑顔でかわして、執務室を後にした。



執務室に戻ると、ナツキは自分の机ではなくソファに腰掛けた。
抜群のタイミングでティーセットをシズルが運んで来る。
立ち上るのはいつもと違って香ばしく、少し強く感じる香り―
それは、ナツキの心を落ち着かせると同時に、少々ざわめかせた。

「今日は、コーヒーにしたのか?」
「ええ。たまにはええかな思いまして」
「そうだな」
「今日のお茶請けにも合いますし」
「チョコレートか?」
「なんでわかったん?」
「だって、今日はバレンタインデーだろ?」
「ふふ。ナツキ、覚えてたん?」
「あぁ、忘れないさ」
「これ、プレゼントなんよ」
「チョコ?」
「ううん。コーヒーカップ」

そう言って、シズルがナツキの前に出したコーヒーカップは、言われてみれば確かに初めて見る器だった。
すり鉢状のフォルムに、角を落とした四角いソーサー。
余計な装飾は一切ないシンプルな白い陶器。
確かに、それはシズルにと言うよりは、ナツキに似合う代物だった。

「この間見つけて、ナツキにあげたいと思うて―」
「ありがとう。シズル」
「気に入ってくれた?」
「あぁ、とても」
「よかった」

そう言って微笑む彼女はとても綺麗だった。
自分の存在が彼女に微笑みを与えるとしたなら、これ程に嬉しいことはないと思った。
斜め前に優雅な動作で腰掛ける彼女から目が離せない―
私のプレゼントは喜んでくれるだろうか?

「さ、頂きましょ」
「待って」
「ん?」
「私からもプレゼントがあるんだ」
「ほんまに?」
ナツキは自分の後ろに隠しておいた箱をシズルに差し出した。

見た目より意外に重量がある、白い布地を纏った薄い四角い箱―
「なんやろ?開けてもええ?」
「あぁ」
細い指でシズルが掛けられたリボンを解き、そっとその蓋を取ると―
「スプーン?」
「あぁ、気が合うと思わないか?」
「ほんまやね―特にこれが」

シズルが一本抜き取ってかざしたスプーン―
それは、頭の部分がチョコレートでコーティングされたチョコスプーン。
きちんとフィルムが掛けられて、リボンも掛られて―
ちょっとしたことでも、手を掛けてくれたことをシズルは嬉しく思った。

「今日は絶対にコーヒーを淹れると思ったから―」
「作ったん?」
「あぁ、ラボを借りてちょっとな」
「忙しいのに」
「たいして時間なんて掛からない」
「でも、嬉しいわ。手間暇掛けてくれて―」
「お前が喜んでくれるなら、いいんだ。さぁ、試してみよう。これを、コーヒーに溶かして飲むんだ」
「ええ」

リボンを解いて、フィルムを外して、コーヒーに入れる―
静かにスプーンをかき回すと、ゆっくりとチョコが溶け出して―やがて混じり合った。

「うん、うまい。モカジャバもたまにはいいだろ?」
「ほんまに―おいし」
「気に入ったか?」
「ええ」

静かで、満ち足りた時―
それもきっとあなたが側にいてくれるから―
そう伝えなきゃ。

「シズル―」
「何?」
「ちょっとこっちに―」
「まだ、何かくれるん?」
「んー?まぁ、な」

ナツキはシズルを横に座らせて、その手を取り―しっかりとその瞳を見詰めて言った。

「私は、お前がいなければ、こんな風に上手くやっていけなかったと思う」

「お前が、いつでも側にいて私を支えてくれていたから、今の自分がある」

「本当に感謝している―ありがとう、シズル」

そして、ぐっとその手を引いて、抱きしめて―キスをした。



キスを交わした後、ナツキにもたれていたシズルが、ふいに笑い出す―

「ふっ、ふふっ」
「何がおかしいんだ?」
「なんや、学生時代のこと思い出しましたわ―」
「?」

きょとんとしているナツキの唇に、シズルは自分の人差し指を押し当てた―

「バレンタインデー。あん時も、ナツキは甘い味がしました」
「うっ!へっ、変なこと言うな・・・バカっ!」
「バカって・・・ひどおすなぁ、ナツキは」
「だって、バカじゃないか・・・あの頃よりは、少しは大人になったんだ―甘いだけじゃないはずだ・・・たぶん」
「なら、もういっぺんしてくれる?うち、バカやから、わからへんかってん」

あの日と同じく、首まで真っ赤に染まったナツキは、それでも意を決したようにシズルに唇を寄せた―

「何度でも―わかるまで・・・」

確かに、コーヒーと混じったチョコレートは、甘いだけではなく、ほろ苦い。

けれど―

「やっぱり、甘いなぁ」

そう言って、何度も口付けを強請るシズルは、あの時と変わらずにしたたかなナツキのお姉さまだった。

君が大好き あの海辺よりも 大好き 甘いチョコよりも
こんなに大事なことはそうはないよ
君が大好き あの星空より 大好き 赤いワインより
女の子のために 今日は歌うよ

―岡村靖幸『だいすき』より




「なーつーき!」
「あぁ、静留」
「今日、学校来てはったんやね」
「まぁ、な」

静留が高等部2年、なつきが中等部3年の冬。
間もなく学年末試験が始まり、すぐに春休みが訪れるそんな頃―

なつきはちょうど制服からバイクスーツに着替え終えたところ。
そこに、先日次期生徒会長に選任されたばかりの静留がやってきた。
静留は真新しいベージュの制服をまとっており、その姿はなつきに何故か不思議な印象を与える。

自分の知らない他の誰かのような―違和感。
けれどもずっと見知っているような―既視感。

もっとも、なつきのバイクの隠し場所を知っているのはこの学園で一人だけで―
その場所に来ると言うことは、他ならぬ静留であることは間違いないのだが。
それに、いつもの穏やかな微笑みを見れば、やはり自分の知る静留だ―
なつきは自然と和らいでいく自分を感じた。

「試験範囲を調べに来ただけだ。もう、帰る」

なつきは、バイクに体を凭せ掛けながら言った。
どうやらすぐに帰るという訳ではないらしい。
静留は、笑みを深めながらなつきの隣に立ち、自分もなつきのバイクにそっと凭れた。

「もしかして、うちのこと待っててくれはったん?」
「別に・・・」
「あら、残念」

静留は露骨に残念そうな顔をして見せた。
しかし、それはすぐに笑顔へと変わる。

「まぁ、ええわ。ちゃぁんと学校に来てたええ子には、ご褒美があります。なつき―これ、はい」

静留は体の後ろに隠しておいた包みをなつきに渡した。

「何だ?これ」
「チョコレート」
「チョコ?」

首をひねって考え込むなつき。
一体どういう生活をしていたら、近頃の市中の喧騒に気づかないのか―
いつもなつきは自分の知らない―いや、知りたくない―何かを追い求めて、駆けている。
なつきらしいと思って嬉しい反面、寂しいと思うのも事実であった。
なつきの賭けるものが自分ではないという―

残酷過ぎる現実

「なぁ、なつき―今日、何の日か知ってはる?」
「いや。知らない」
「バレンタインデー」
「バレン、タイン?」
「なつき・・・もしかして、バレンタイン知らへんの?」
「それくらい、知ってる。ただ・・・こういうのは、その・・・す、好きな男にやるもんじゃないのか?なんで、私に?」

なつきは当たり前のことを言っただけだが、当たり前のことが当たり前でない静留にはその言葉が深く突き刺さった。
塞がることのない傷口が裂けて、痛みを訴える、血が流れる―

血が足りない―

けれども静留はそんな痛みを無視して、小さく笑った―

「ふふ―なつき、いったいいつの話してるん?最近は友チョコ言うて、お友達にもあげるもんなんどす」
「そうなのか?ふぅん」
「うちらは友達ですやろ?」
「あ・・・あぁ。まあ、な」
「それに、うちはなつきのことが好きやから」
「おまっ・・・好きとか・・・いつもいつも、よくそんな恥ずかしいことが言えるな」
「お友達のこと、好きやって言うたらあかんの?」
「別に・・・そういう訳じゃないけど・・・」

そう言って口ごもるなつきの顔はすでに真っ赤で―
静留はなつきが自分の痛みに気づかないことに、安堵と―そして同時に哀しみを覚えた。

「なつきは、相変わらず照れ屋さんやねぇ」
「別に照れてなど・・・」
「せやったら何でこんなにほっぺが赤いんやろな」
「それは・・・寒いからだ!!」

なつきは頬を突いてくる静留の指を避けて、体ごと顔を背けた。
髪の隙間から覗くなつきの耳まで、赤くなっている。
静留は後ろからなつきを抱きしめた―
決してなつきが、自分の表情を見ることのないように。

「ほなら―」
「なっ!こらっ!やめろ!」
「いやや。うちも寒いんやもん!」
「知らん!離せ!」
「いけずぅ」
「いけずじゃない!!」

なつきは何やら小声でぶつぶつと続けていたが、静留が何をしても離さない風なのであきらめて大人しくなった。

「そうや、なつき―」
「ん?」
「お礼は3倍返しが基本なんやって」
「え?」
「楽しみやなぁ♪」
「・・・一体、何が欲しいんだ?」

あなたが欲しいと、そう願うから
この温もりが欲しいと、そう願うから
心も体も全て自分のものにしたいと

だから―

「そうやなぁ、なつきの愛―」
「愛ぃぃぃ??」
「の籠もった、手作りクッキーとかどないやろ?」
「・・・お前、勇気あるな」
「冗談や。うちもまだ死にたくないし」
「な!何だと!」
「うふふ。堪忍」

静留はなつきから離れた。
これ以上は無理だった―

「―ほな、うち、もう行きますな」
「あぁ、生徒会の引継ぎ忙しいのか?」
「まぁ、ぼちぼちな」
「そうか・・・じゃぁな」

ずっと一緒にいたくて―
一瞬たりとも側にいたくなかった。
静留はなつきに背を向けた。

「なつき―」
「ん?」
「そのチョコな―」

本命なんよ。
そう言えたらどんなに幸せなことだろう。
好きと言えたなら―

「甘いもの食べると脳に糖分がいって、よう働くようになるんやって―せやからお勉強の時に食べはるとええわ。ほなな」
「あの・・・静留?」
「ん?」

振り向いた静留は、いつもと変わらぬ微笑を湛えてはいたが―
その顔はとてもとても白く見えた。
哀しそうに見えた。
それをなつきは制服のせいにした。
きっと、見慣れないからだと―

「あー・・・その・・・ありがとう」
「ええんよ。なつきの試験上手くいかんかったら、来年も中等部やろ?そんなん、うちも嫌やっただけや」
「これ以上留年するのはごめんだな」
「せやね。ほな、気張りよし!」
「あぁ。またな」
「また」

静留はクルリときびすを返して、振り向かないように、俯かないように歩きだした。

背後で、バイクを起こして土を蹴って跨る気配―

やがて聞こえてくるエンジン音―

なつきが、どこか遠くへ行く音―

今日も貴女に嘘をついた
明日も貴女に嘘をつく

今日も自分を誤魔化した
明日も自分を誤魔化す

貴女を傷つけるくらいなら、この刃は―喜んで自分に向けよう。

遠ざかる爆音が、静留の傷口に響いた―

なつき―うちは、あんたのことが・・・


堪忍、な・・・
  1. 2007/02/18(日) 22:51:01|
  2. だいすき(舞-HiME SS)
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ここは舞-(乙)HiMEの静留(シズル)・なつき(ナツキ)・奈緒(ナオ)への愛をこじらせるファンサイトです。版権元とは一切関係御座いません。勝手ながらR18とさせて頂いておりますので、18歳以上の分別のある大きなお友達だけ遊びにいらしてください。百合の花が仰山咲いておりますので、閲覧は自己責任でお願いします。 当サイトの全ての画像及び文章等の無断転載・引用はご遠慮下さい。

プロフィール

長澤 侑

Author:長澤 侑
性別:ネコ
属性:ヘタレな王子
特徴:ビタミンShizuru分が足りなく
    なるとヘタレる
持病:静留病
    (英名:シズル・シンドローム)
尊敬する人:
ヘタレの星玖我なつき
ヘタレ学園長ナツキ・クルーガー

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